「勲」
正字(旧字体)は「勳」である。

白川静『常用字解』
「形声。音符は熏。古い字形では勛に作る字がある。員は円い鼎の形で、力は耒(すき)の形であるから、勛は農耕のことに関して褒賞することであったかもしれない。鼎や爵が熏の形に変わり、形声の字である勲が作られたのであろう」

[考察]
白川は音符を熏としながら、熏からの字源の説明を放棄している。
古典では勳は次のように使われている。
 原文:狐趙之勳不可廢也。
 訓読:狐・趙の勲は廃すべからざるなり。
 翻訳:狐氏や趙氏の功績は忘れてはいけない――『春秋左氏伝』文公八年

勲は立派な功績(いさお)という意味で使われている。これを古典漢語ではhiuən(呉音・漢音でクン)という。これを代替する視覚記号として勳が考案された。分析すると「熏(音・イメージ記号)+力(限定符号)」となる。熏は次の413「薫」で詳述する通り、「香気が立ち込める」というコアイメージがある。高い香気を比喩として、立派な功績を「高い評判が漂うもの」と捉えて、薫と同じ音でhiuənと呼んだ言葉である。立派な功績を薫と書いた文脈もある。勲は薫(かおり)から派生した言葉である。限定符号を艸から力(力と関係があることを示す符号)に替えたのが勳である。