「群」

白川静『常用字解』
「形声。音符は君。君は攈(あつめる)と音が同じで、群れをなして集まるという意味がある。攈はまた捃に作り、音符は君。羊は群れをつくって行動する習性があるので、羊の群れを群という」

[考察]
攈や捃から君に「群れをなして集まる」の意味を導いたが、君にこんな意味はない。また群に「羊の群れ」という意味があるだろうか。こんな意味はない。ただ「むれ」の意味である。形声を会意的に説くと、図形的解釈と意味が混同され、意味に余計な意味素が混入する。羊は限定符号であって、意味の中に入らないのである。
限定符号は三つの役割がある。①カテゴリーを示す符号。例えば鯉の「魚」は魚類というカテゴリーを示す。②比喩的限定符号。例えば群の「羊」は群れをなす家畜の代表として、比喩的な働きをする符号である。③場面設定のための符号。図形的意匠を作るため、何に関係のある場面や情景を設定するかを指示する。
群は「君(音・イメージ記号)+羊(限定符号)」と解析する。君は「全体をまとめる」というイメージを表す記号である(410「君」を見よ)。羊のように、多くのものが集まって一つにまとまる情景を暗示させる。この意匠によって「むれ」「むれをなす(むらがる)」を意味する古典漢語giuən(呉音ではグン、漢音ではクン)を表記する。
古典では次の用例がある。
①原文:誰謂爾無羊 三百維群
 訓読:誰か謂はん爾に羊無しと 三百なり維れ群れ
 翻訳:お前に羊がないなんて誰が言う 群れが一つで三百頭――『詩経』小雅・無羊
②原文:詩可以興、可以觀、可以群、可以怨。
 訓読:詩は以て興すべく、以て観るべく、以て群すべく、以て怨むべし。
 翻訳:詩というものはそれによって感興を起こすことができ、人情を観察することができ、仲間を集めることができ、時政を批判することができる――『論語』陽貨

①は多くのものが一つにまとまったむれの意味、②は多くのものが一か所に集まる(仲間が集まってむれをなす)という意味で使われている。