「刑」

白川静『常用字解』
「形声。音符は井ケイ。井は首枷の形であるが、刑の古い字形には手枷を加えている字があり、首や手に井(かせ)をはめることが刑、刑罰であった。肉体を切り傷つける刑罰が多くなり、井に刀を加えた刑となった」

[考察]
字形から意味を導くのが白川漢字学説の方法である。井(かせ)→首や手にかせをはめるという意味を導く。井の後に刑ができたというから、井だけで刑罰の意味とするらしい。
形声としながら会意的に説くのが白川説の特徴である。図形的解釈と意味を混同する傾向がある。「首や手にかせをはめる」は図形的解釈であろう。では刑とはどういう意味か。これが白川説では分からない。言葉という視点を導入し、言葉の深層構造を掘り下げないと、言葉の正しい意味はつかめない。もっとも言葉の意味は古典で使用される文脈から知ることができる。これは表層で実現される意味である。なぜこの意味になるかは、言葉の深層構造を探ることによって明らかになる。
まず刑を使った文脈を見てみよう。
①原文:刑期于無期。
 訓読:刑は刑無きを期す。
 翻訳:刑罰は刑罰のないようにするのが理想である――『書経』大禹謨
②原文:刑于寡妻 至于兄弟
 訓読:寡妻に刑し 兄弟に至る
 翻訳:[文王の母は]夫人から兄弟に至るまでに手本を示した――『詩経』大雅・思斉

①は法に当ててこらしめる(仕置きする)の意味、②は手本・模範となる意味に使われている。①と②は全く無関係に見えるが、二つの意味の関係を解く鍵はコアイメージである。
①の意味をもつ古典漢語はɦeng(呉音ではギヤウ、漢音ではケイ)である。これを代替する視覚記号として刑が考案された。古人は刑と形と型を同源とする意識をもっていた。これらに共通するイメージは「一定の枠」である。法も枠の一つである。法という枠を外すのが犯罪行為であり、それに対して枠にはめ込んで自由を奪うことが刑罰である。だからɦengという語には「枠にはめる」というコアイメージがある。この語の図形化には「枠にはめる」というイメージが示せるような意匠が工夫された。これが刑である。
古い字体(金文)は「井+刀」の字体であったが、篆文では「丼+刀」または「幵+刀」、楷書では「开+刀」に変わった。変化形では「枠にはめる」のイメージは示せない。井は井戸の井の場合は井桁の形で、これも枠の一種ではある。しかしこの井はtsiengという言葉を表記し、ɦengとはかなり音が違う。むしろ耕に含まれる井(四角の枠を区切る形)と同じで、耕(kĕng)と似た音を表すと見たほうがよい。kĕngとɦengは近い。かくて「井ケイ(音・イメージ記号)+刀(限定符号)」を合わせたのが刑である。この図形の意匠は「罪人を四角い枠(首枷、牢屋など)にはめ込んで仕置きする情景」である。この意匠によって①の意味をもつɦengを表記する。
意味はコアイメージによって展開する。「枠にはめる」というコアイメージから、一定の型(手本や模範)に当てはめるという意味に展開する。これが②の意味である。