「形」

白川静『常用字解』
「会意。井と彡とを組み合わせた形。井には二つの意味があり、刑の場合は首枷の刑であるが、形の場合は木の枠の形である。木の枠を組んだ鋳型の外枠である。この鋳型によって形成された鋳物の“かたち、美しいかたち” を形という」

[考察]
418「刑」では井を音符とする形声とし、本項では会意とする。不統一である。また、井に二つの意味があるというが 、刑の場合も形の場合も「枠」というイメージで括れる。白川漢字学説では形声の説明原理がなく、言葉の深層構造に目が行かないから、言葉の根源のイメージを捉えることができない。そもそも初めから言葉という発想がない。
形声の説明原理がないから会意的に説くのが白川漢字学説の特徴である。会意とはAの意味とBの意味を合わせた「A+B」をCの意味とする方法である。この方法はAとBをのっぺりとプラスするので、図形的解釈と意味が混同される傾向がある。図形的解釈をストレートに意味とするから、意味がゆがみ、余計な意味素が混入する。「鋳型によって形成された美しいかたち」は井と彡を足した図形的解釈であって、意味ではない。意味とは言葉の意味であり、具体的な文脈で使われる意味である。形は古典で次の用例がある。
①原文:形而上者謂之道。
 訓読:形よりして上なる者、之を道と謂ふ。
 翻訳:目に見える形を超えたものが道といわれる――『易経』繫辞伝上
②原文:不爲者與不能者之形何以異。
 訓読:為さざる者と能はざる者の形は何を以て異ならんや。
 翻訳:しようとしない者とできない者との状況はどこが違うか――『孟子』梁恵王上

①は物のかたち(外に現れた姿)の意味(円形・球形の形)、②は表面に現れた様子の意味(形象・形状の形)で使われている。この意味をもつ古典漢語はɦeng(呉音ではギヤウ、漢音ではケイ)である。これを表記する視覚記号が形である。形・刑・型は同音で同源の語である。同源の語には共通のイメージがある。「(四角い)枠にはめる」がコアイメージで、これを表す記号が井である(418「刑」を見よ)。形は「井ケイ(音・イメージ記号)+彡(限定符号)」と解析する。彡はあや・模様と関わる限定符号である。したがって形は、物が一定の枠で縁取られる状況・様子を暗示させる。この図形的意匠によって、物の存在をはっきりと表すかたちを意味するɦengを表記する。