「径」
正字(旧字体)は「徑」である。

白川静『常用字解』
「形声。音符は坙ケイ。坙は織機にたて糸を張り、下端に横木をおいて糸を直線に伸ばした形である。彳は行の左半分で、道の意味がある。径とは直線的な近道をいう」

[考察]
結論は妥当であるが、字形から意味を導くのではなく、意味がどのように図形で表されたかを探求すべきである。言葉という視点がすっぽり脱落しているのが欠点である。
意味とは言葉の意味であり、言葉が具体的文脈で使われるときの意味である。径は古典で次のように使われている。
 原文:行不由徑。
 訓読:行くに径に由らず。
 翻訳:道を行くとき、近道を通らない――『論語』雍也

径は近道の意味で使われている。a点からb点に行く際、途中のc点を通ると時間がかかる場合、そこを通らないで、a点とb点をつなぐ道ならぬ道を行くことがある。これが径である。aーb間はまっすぐであるが、正式なルートではない。邪道である。孔子はこれを嫌い、「行くに径に由らず」と言った。
古典漢語では、正式な通り道ではなく、歩いて行けるが車の通らない短距離ルートをkeng(呉音ではキヤウ、漢音ではケイ)という。これに対する視覚記号が徑である。これは「坙ケイ(音・イメージ記号)+彳(限定符号)」と解析する。 坙は「縦にまっすぐ通る」というコアイメージを示す記号である(431「経」を見よ)。徑は回り道をしないで、まっすぐ距離の短いルートを通って行く状況を暗示させる。