「蛍」
正字(旧字体)は「螢」である。

白川静『常用字解』
「形声。音符は𤇾(エイ)。“ほたる” をいう。𤇾は松明を×形に組み合わせた形で、その火の光を熒という。松明の火の粉の飛び散って光る様子を蛍の飛びかうのにたとえたのであろう」


[考察]
字形から意味を導くのが白川漢字学説の特徴である。松明のような火の粉の飛び散って光る様子から「ほたる」の意味が出たというものであろう。比喩と見たのは納得できる。ただし意味は字形から来るのではなく、意味を字形に表現すると、螢が考案されたというのが歴史的、かつ論理的である。
まずホタルを意味する古典漢語ɦueng(呉音ではギヤウ、漢音ではクヱイ)があった。これを視覚記号化するために螢が生まれた。この図形はどういう意匠があるのか。ホタルの特徴の一つを捉えて造語され、造形されたのである。特徴の一つは発光である。光が輪をなして発散する形態から発想して、栄・営などと同源の言葉として造語してɦuengといい、その視覚記号として螢が造形された。これは「𤇾(音・イメージ記号)+虫(限定符号)」と解析する。𤇾はかがり火から発想された記号で、「光の輪が取り巻く」というイメージ、また「周囲を丸く取り巻く」というイメージがある(56「栄」を見よ)。したがって螢は丸い光を発する虫を暗示させる。これが螢の図形的意匠である。
字形から意味を導くと光を発する虫はホタルとは限らないが、ɦueng(螢)がホタルの意味であることは古典の文脈から知られていることである。なぜ螢が考案されたかを説明するのが字源説である。