「景」

白川静『常用字解』
「形声。音符は京。景は光のある状態をいうので“ひかり”の意味となり、光によって作られる“かげ” の意味ともなる」

[考察]
白川漢字学説には形声の説明原理がなく、すべて会意的に説くのが大きな特徴である。本項でも会意的に説こうとしたが、京からの解釈ができない。だから字源を放棄した。
景は「ひかり(日光)」と「かげ」という相反する意味がある。歴史的には「かげ」の登場が早い。
 原文:二子乘舟 汎汎其景
 訓読:二子舟に乗り 汎汎たる其の景(かげ)
 翻訳:ふたりを乗せたその舟は みずもにゆらゆら影映す――『詩経』邶風・二子乗舟
語史的には『詩経』の用例が最も古い。しかし論理的には「ひかり」の意味が最初と考えられる。というのは古典漢語で「ひかり(日光)」をkiăng、「かげ」を・iăngというが、後者は前者からの音転と考えられるからである。だから「ひかり」→「かげ」に転じと見てよい。
光とかげはポジとネガのような関係である。光のある部分をA、光の差さない部分をBとすれば、光とかげはA|Bのようにくっきりと分かれる。光とかげはくっきりとした境界のついたものなので、kiăngという語には「くっきりと境界をつける」というコアイメージがある。古人は「景は境なり」と捉えている。
このkiăngに対する視覚記号が景である。これは「京(音・イメージ記号)+日(限定符号)」と解析する。京は大きな丘という意味の語だが、空間的、地理的特徴から「高い」「大きい」「明るい」というコアイメージがある(352「京」を見よ)。したがって景は物を明るく照らす日光を暗示させる。
一方、kiăngには「くっきりと境界をつける」というコアイメージもあり、日光は明暗の境界をつけるものという感覚である。明の部分に視座を置けば「ひかり(日光)」の意味、暗の部分に視座を置けば「かげ」の意味になる。のち景(ひかり)と影(かげ)で使い分けるようになった(59「影」を見よ)。