「軽」
正字(旧字体)は「輕」である。

白川静『常用字解』
「形声。音符は巠。巠は織機にたて糸をかけ渡し、下部に工の形の横木をつけて糸を強く張った形。巠に直線的なもの、また直線的で緊張した状態であるから軽くて速いものの意味がある。それで速い車の意味となる」

[考察]
巠のグループ(径・茎・経・軽・頸など)に関しては妥当な字源説である。ただし字形から意味を導くという方法は一貫しているから、巠に「直線的なもの」「軽くて速いもの」という意味があるとしているが、巠にそんな意味はない。「直線的」というイメージはある。意味とイメージは違う。イメージは言葉の深層にあるものだが、意味は具体的文脈(表層)に現れ、実際に使われるものである。
輕は古典に次の用例がある。
①原文:甲盾五兵皆輕以利。
 訓読:甲盾五兵は皆軽くして以て利(と)し。
 翻訳:よろい・たて・五つの兵器はすべて軽くて鋭利である――『墨子』節用
②原文:輕車先出。
 訓読:軽車先に出づ。
 翻訳:身軽な車が真っ先に出てくる――『孫子』行軍

①は目方が少ない(かるい)の意味、②はスムーズに動けて身軽である(かろやか)の意味で使われている。これらの意味の古典漢語をk'iengといい、輕で表記する。これは「巠ケイ(音・イメージ記号)+車(限定符号)」と解析する。巠は「縦にまっすぐ通る」というイメージがある(431「経」を見よ)。「縦にまっすぐ通る」は「摩擦や抵抗がなくまっすぐ進む」というイメージに展開する。したがって輕は車(戦車など)が抵抗なくまっすぐ進む情景を設定した図形である。この図形的意匠によって、重量が少なく動きがスムーズな状態を暗示させる。この状態を意味する言葉がk'iengであり、前半に焦点を置くと①、後半に焦点を置くと②の意味が実現される。