「途」
白川静『常用字解』
「形声。音符は余。余は把手のついた大きな針の形。この針を呪具として使用し、土中に突き刺して地下にひそむ悪霊を取り除くことを除道という。除道を水路に行うことを涂、道路に行うことを途といい、涂・途は祓い清められた“みち”の意味となる」
[考察]
字形から意味を引き出すのが白川漢字学説の方法である。余(呪具の針)+辵→祓い清められた道という意味を導く。
871「除」では次のような疑問を述べた。
「叙」の項では余は膿を取り除く手術用の針だと言い、本項では土中に突き刺して悪霊を取り除く針だと言う。こんな針が存在するだろうか。また神が天地を上り下りする梯が存在するだろうか。その梯の前の地で針を刺して邪気を祓い清めるとはどういうことか。神がするのか、人がするのか。除がこんな意味を表すだろうか。いろいろな疑問が浮かぶ。(871「除の項)
除道は道を開いたり整えたりすることであって、「土中に突き刺して地下にひそむ悪霊を取り除く」という意味があるはずもない。また「除道を水路に行う」ことが涂だというが、水路とは川や溝のことであろう。「針を土中に突き刺して地下にひそむ悪霊を取り除く」ことを川で行うとはどういうことか。
途に「祓い清められた道」という意味があるだろうか。これは図形的解釈であろう。図形的解釈と意味を混同するのが白川漢字学説の全般的特徴である。
意味とは「言葉の意味」であって「字形の意味」ではない。字形から意味が出るのではなく、言葉の使われる文脈から出るものである。途の使われる文脈を古典に当たってみよう。
原文:迂其途、而誘之以利。
訓読:其の途を迂にして、之を誘ふに利を以てす。
翻訳:道を迂回し、敵には利益で誘導する――『孫子』軍争
途は道、道筋、進路の意味で使われている。これを古典漢語ではdag(呉音でヅ、漢音でト)という。これを代替する視覚記号しとして途が考案された。
途は「余(音・イメージ記号)+辵(限定符号)」と解析する。余については871「除」、758「舎」などで既述しているが、もう一度振り返る。
余の原形は先端が㐃の形で下部に柄のつた道具である。土を削る鍬の類と考えてよい。これに八(左右に分ける符号)を添えたのが余である。でこぼこした土を農具(鍬の類)で平らにかき分けて均す情景を設定したのが余である。この図形的意匠によって、「横に平らに伸ばす」というイメージを表すことができる。このイメージは「平らに(段々と)押し伸ばす」「徐々に伸びて広がる」というイメージにも展開する(871「除」の項)。
余は「横に平らに伸ばす」「平らに押し伸ばす」というイメージを表す記号である。邪魔なものを押しのけて通りをよくする行為が除(のぞく)である。掃除の除である。辵は進行や歩行と関係があることを示す限定符号。したがって途は邪魔なものを除いて通行できるようにしたもの、つまり「みち」を暗示させる図形となっている。
白川静『常用字解』
「形声。音符は余。余は把手のついた大きな針の形。この針を呪具として使用し、土中に突き刺して地下にひそむ悪霊を取り除くことを除道という。除道を水路に行うことを涂、道路に行うことを途といい、涂・途は祓い清められた“みち”の意味となる」
[考察]
字形から意味を引き出すのが白川漢字学説の方法である。余(呪具の針)+辵→祓い清められた道という意味を導く。
871「除」では次のような疑問を述べた。
「叙」の項では余は膿を取り除く手術用の針だと言い、本項では土中に突き刺して悪霊を取り除く針だと言う。こんな針が存在するだろうか。また神が天地を上り下りする梯が存在するだろうか。その梯の前の地で針を刺して邪気を祓い清めるとはどういうことか。神がするのか、人がするのか。除がこんな意味を表すだろうか。いろいろな疑問が浮かぶ。(871「除の項)
除道は道を開いたり整えたりすることであって、「土中に突き刺して地下にひそむ悪霊を取り除く」という意味があるはずもない。また「除道を水路に行う」ことが涂だというが、水路とは川や溝のことであろう。「針を土中に突き刺して地下にひそむ悪霊を取り除く」ことを川で行うとはどういうことか。
途に「祓い清められた道」という意味があるだろうか。これは図形的解釈であろう。図形的解釈と意味を混同するのが白川漢字学説の全般的特徴である。
意味とは「言葉の意味」であって「字形の意味」ではない。字形から意味が出るのではなく、言葉の使われる文脈から出るものである。途の使われる文脈を古典に当たってみよう。
原文:迂其途、而誘之以利。
訓読:其の途を迂にして、之を誘ふに利を以てす。
翻訳:道を迂回し、敵には利益で誘導する――『孫子』軍争
途は道、道筋、進路の意味で使われている。これを古典漢語ではdag(呉音でヅ、漢音でト)という。これを代替する視覚記号しとして途が考案された。
途は「余(音・イメージ記号)+辵(限定符号)」と解析する。余については871「除」、758「舎」などで既述しているが、もう一度振り返る。
余の原形は先端が㐃の形で下部に柄のつた道具である。土を削る鍬の類と考えてよい。これに八(左右に分ける符号)を添えたのが余である。でこぼこした土を農具(鍬の類)で平らにかき分けて均す情景を設定したのが余である。この図形的意匠によって、「横に平らに伸ばす」というイメージを表すことができる。このイメージは「平らに(段々と)押し伸ばす」「徐々に伸びて広がる」というイメージにも展開する(871「除」の項)。
余は「横に平らに伸ばす」「平らに押し伸ばす」というイメージを表す記号である。邪魔なものを押しのけて通りをよくする行為が除(のぞく)である。掃除の除である。辵は進行や歩行と関係があることを示す限定符号。したがって途は邪魔なものを除いて通行できるようにしたもの、つまり「みち」を暗示させる図形となっている。
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